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ヨセミテ ロストラム ノースフェイス

by yudaisuzuki

The Rostrum The North Face (5.11c 9p 300m)

エルキャピタン・フリーライダーと対峙し、カリフォルニアの灼熱の太陽と、ビッグウォール特有のロープ ワークや荷上げに苦戦させられた僕らは、純粋なフリークライミングを満足にさせてもらえず、何か煮え切らないものを抱え、ヨセミテバレーで数日を過ごしていた。
9 月終盤とはいえ、南面の岩は太陽が当たれば直ぐに鉄板のように熱くなり、シビアなフットワークやジ ャミングが求められるルートは何倍にも増して難しくなる。キツく巻いたテーピングは暑さで吹き出る汗に よって数分と持たずに剥がれ、剥き出しとなった手の甲を更に痛めつける。 そんな状況に嫌気のさした僕らは、純粋なフリークライミングの対象として、かの有名なロストラム、ノー スフェイスを登る事とした。 その名の通り北面に位置し、朝から夜まで太陽が全く当たらない、今の僕らにとっては打って付けのル ートであった。5.11c という核心グレードも、「ひょっとしたら全て一撃でいけるんじゃないか。」と言いつつ も、心の中では「絶対に全てオンサイトしてやる」という、フリーライダー敗退の悔しさをぶち撒けるような 強いモチベーションに包まれていた。

【300m のクラックがロストラムタワーの頂上まで続いていく】

薄明るいうちに、ロストラムタワーの上のパーキングに駐車し、トレイルを探り探り下降する。何度か迷っ た箇所はあったものの、比較的スムーズに懸垂下降ポイントへと辿り着いた。トポには 60m ロープで 4 回のラペルで取り付きの地面に着くと記載があったが、我々は 70m ロープを使用していたので、3 回で 着いた。以下の記録はオンサイトトライを奪うものであるので、トライ予定の方は読み飛ばして欲しい。 1st p 5.9 40mEvan リード

5.9 の素晴らしいフレークを快適に登り、5.7 のチムニーを処理して終了。チムニーの奥にはハンドクラッ クもあり、エルキャプのハードな 5.7 チムニーような嫌らしさはなかった。 フォローで快適に登った。Evan がホーリング用のスタティックロープとメインロープを相当複雑に絡ませ て、1 時間ほどロスするが、なんとかいいムードで登り続けることとなった。

2nd p 5.11a 35mYD リード OS ダウンクライムからトラバース、黒エイリアンを決めてから、指より細いフィンガーの数手が、見た目に圧 倒される。ギリギリではあったが、短いので上手く登り切れた。むしろその後の 5.9lb セクションがあまり フットホールドがなく、真のクラックを這い上がるような技術を試される系で面白かった。ボルトなしなの で、#1,#0.75 カムでビレイ。

3rd p 5.10b 50m Evan リード
50m 超の長大なピッチ。主にハンドクラックで凹角を使った傾斜殺しもできるので、しっかり落ち着けば 問題ない。カムを切らし、テラス手前でボルトとカムでピッチを切った。フォローで落ち着いてノーフォール で登る。

4th p 5.10a 10m YD リード OS
10m 弱、最後ガバを掴んでポルダリーなヒールフックを決めて、広々したテラスへ。ここからルートの全 貌がよく見えるとともに、次に登るべくスパッと切れたフィンガーが目の前に迫り、興奮する。

5th p 5.11c 45m YD リード OS 刀で切ったような美しいクラック。下から見渡す限りフットホールドは乏しく、完全なジャミング勝負となり そうだ。
各サイズ 2 セット以下のカムしか持ってきていないので、まず 1 番下にナッツを決め、大きなフットホー ルドから離陸する。0.3〜0.4 サイズが続く細いクラックにも、ボトミングジャムがよく決まる箇所が疎らに あるようだ。北海道のロングナイトやアチャラナータで培ったジャミング技術を思い出しつつ、落ち着いて 限られた良い位置に指を落とし、捻り込む。ギアは良いので、サッサと上に抜けるのが良いと判断し、明 らかなハンドのレストポイントまで駆け上がった。思った通り、休める。上部は下のフィンガーほどは悪く 無さそうだが、気が抜けなさそうだ。しっかりとレストをし大事に行こう。持っているカムと、残りのクラックを見比べ、セットのイメージをしてから再出発。イメージ通りスムーズにいくが、最後のシンハンドが想定外に悪い。だがもう核心は確実に超えているし、レッジはすぐだからと気合でねじ伏せ、マントルを返し た。嬉しさが込み上げる。この後のピッチの時間短縮の事も考え、そのまま 5.9 のピッチも繋げて登り、 穴の空いた快適なテラスでビレイ。これでロストラムのオンサイトと、フォローでもノーフォールが見えてき た。

6th 5.10d 30m Evan リード 快適なコーナークラックを左右の凹角スタンスを拾いつつ、超えていく。最後のブロックを超えるところ が、見るからにパワフルそうだったが、フォローで落ち着いて処理できた。

7th 5.10a OW 35m YD OS
下部の 5.11c を抑えて、このピッチこそが本当のロストラムの核心と言う人もいる、油断できないピッチ。 ヨセミテのワイドグレードは当てにならない事で有名なので、警戒が必要だ。 まずは、クラックにたどり着くためのブランクセクションの突破が難しそうだ。今までずっと続いてたクラッ クが突如ここで数メーターだけ途切れるのだ。何度か行き来を繰り返し、パズルを解くように突破した。強 度的には 10a の範疇だが、強引に違うムーブで行っていたら落ちていただろう。 その後、大きくオフセットしたという表現が適切なのか分からないが、これまで経験したことのない形状の オフウィズスに圧倒される。何度か右刺し、左刺しを試し、採取的には左刺しのチキンウィングとニースタ ック、右足をクラックの淵に擦り付けて、推進力とする。前々日にジェネレータークラック 5.10c で軽く練習したのが効いていたのか。

体幹的にも、精神的にもキツくなってきたところで、突然、クラックに隠れたしっかりと持てるガバが現れ、勝利を確信する。ギリギリなところだった。しっかりとヨセミテの 5.10a 以上 ある厳しい OW であった。
カチ主体のスポートクライミングメッカであるスミスロックを主戦場とし、5.13 も登る Evan は、同時に OW 初心者であり、呻きながら這いずり上がってきた。今後のエルキャピタン再トライに向けても良い経験となっていそうだ。

8th 5.11b 35m YD OS
このピッチを登り切れば、残すは 5.9OW のみとなる最後の核心。5.10d と 11b の二通りのルートがあ り、5.10d で行こうと最初は考えていたが、クラックがフレアしているのと、カムのサイズが大きそうで手 持ちが無さそうだったので、予定を変えて即興で 5.11b に行くことを決意。 ハンド〜フィンガーサイズを快調に進み、コーナーを回り込んだところで、いきなりクラックが指以下のサ イズとなる。決死の思いで行くが、余りに悪いため、一旦クライムダウン。薄暗くなり始めていて、よく分か らなかったが、ここは 5.13a の別ラインだと察し、一つ右にある、もう少し広いタイトハンドサイズのコーナ ーへ突進。ここまでの疲れも蓄積し、徐々にパンプ を感じ始めるが、ここは出来るだけレイバックで突っ込むのが吉と察し、3.4 手、勢いよく出していった。すると、甘く決まるハンドに到達し、コーナーの左右にスタンスも発見。何とか回復する。

そのまま、落ち着いて数メーターのハンドを登りきり、アンカーのある不思議な洞窟に辿り着いた。本当にギリギリで最後の力を振り絞ったので、嬉しさがこみ上げる。信じられないが、ここまでの 270m、まだ落ちていない。

9th 5.9OW 30m YD OS

いよいよラスト、登り切れば全てのリードピッチでのオンサイト、フォローピッチでもノーフォールとなる。完 全に暗くなり、緊張が走るが、ヘルメットを外し、丁寧にオフィズスまでのトラバースをこなす。 すると、早速悪い。流石はヨセミテの 5.9OW だ。体の向きを変えたり、色々試すが上手くフィットせず、こういう時のレイバックだ、とやってみると、上手くいった。最後のスラブ、マントルも慎重に登り、ロストラム を完全ノーフォール、オンサイト(※簡単なフォローピッチはわざわざ登り直していない)で登り切ることができた。

名だたるクライマーらが、ヨセミテで登るべき一本として挙げているロストラム。これでもかと、300m に渡 って走る美しいクラックを1度も落ちることなく登りきったことを、頂上台地から見える満点の星空が祝してくれた。 結果的にはこの登攀が、僕らを勇気付け、リフレッシュさせ、1度は途中敗退したエルキャプ・フリーライダーへと再度挑戦する後押しをしてくれた。そんな大きな意味のあるクライミングとなった。

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