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ONE PIECE 

by yudaisuzuki

The North Faceアスリートのプロフィール文のライティングに際して、ライターの寺倉さんより簡単な質問を何点か受けた。
その中で、「今まで登った中で印象的なアイス・ミックスのルートは?」というものがあった。印象的なルートはたくさんある。特に北海道で登り込んできたMグレードのルート達は、すべてどこかしらに困難さがあり、かつ、ユニークで面白いルートであった。それぞれコンディションを掴むのもかなり難しい。
そこで僕は、アイスルートの一つとして「ONE PIECE」を挙げた。グレードはWI5程度。全く難しくないが、そこに辿り着くまでの道のりは、果てしない。なぜならアプローチの情報や地図を入手するのが困難を極めるからだ。
このルートの情報は、奈良・吉田ペアの開拓したミックスルート四課題を完登した者にしか与えられない。ONE PIECEの宝探しのように、北海道に散らばった宝を4つ集め、初めて挑戦することができる。
斬鉄剣M11+ /神居古潭
国内最難のMグレードだが、トポには「中級者の目標、上級者のトレーニングに有効」との記載。
本気トライ中には辛いコメントだなと思うが、やりこむほどにその意味がわかる。
ちなみに素手とクライミングシューズで登ると5.13-でまだ第2登までしか出ていない。
北海道随一の石灰岩スポートクライミングルート。
ポセイドン/千代志別
なんといっても荒れ狂う日本海からスタートするそのロケーションは北海道ベストどころかワールドクラス。
スパーっと垂直なツララ帯が70m以上続く。
ダニアーノルドが第2登とその価値を高めている。
初登はカヤックアプローチというから、さらにこのルートのユニークさが際立つ。いつかやってみたい。
天人峡ダイレクト/大雪山天人峡
日本離れした縦横ともに100mを超えるビッグアイス。
通常、豪雪のパウダースノーを掻き分けて深い渓谷に降りてからのスタートになるため、
なんとしてもトップアウトしないとトラブルとなる。
そのスリリングな冒険を味わうためにもグラウンドアップでのトライがおすすめ。
スペクターM10+ /千代志別
ルーフに近い強傾斜、その脆っぽい見た目と(実際脆い)
奇跡的に繋がっているブロック上の岩やクラックが美しいラインを構成している。
上と下の氷がでかいと登りやすい。
スカイフォールM11-
スペクターの左のラインからスペクターに合流。
合流前のハングトラバースで落ちると、勢いよく空中に投げ出されるので怖い。
これもアックスの刃先がスポッと入るクラックがあったり、欲しいところに氷があったりして
奇跡的に登れる自然の造形美的ルート。
——-
以下、奈良さんによる「北海道アイスサーキットの説明」
奈良さんFacebookより引用だ。
“ONE PIECE”に関わる粗原稿を編集者へ送ったら、
「公開条件をつけるとは独善的だ。」
「グレードをつけない意味がわからない。」
と非難の返信が来た。
改善を求められたけど、表現の自由が無いなら記録を提供するのは義務じゃないし。
せっかく書いたので、粗原稿はここに貼ります。
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開拓と公開(粗)
北海道 奈良誠之
言うまでもなく世の中はコロナ感染症を中心に動いている。
国や自治体は行動のガイドラインを示し、その中で人は判断しながら生活をしている。
今期は国や自治体の要請を自分の範囲で守るというルールで活動しようと思った。
その方がスマートだと感じたからだ。
北海道は10月末に行動の自粛要請を発出し、特に旭川への往来を制限した。
これにより例年シーズン前に調整で登っていた旭川ミックスエリアでの活動を諦めた。
僕は家トレーニングをひたすら繰り返し、当然に酷く故障をする。
年が明け旭川への制限は解除されたが既に必要はなく、故障も回復せずで、ひとりで山へ入り、新しいアイスポイントの調査を繰り返した。
首都圏や都市部では非常事態宣言が発令されたが、北海道は10月末からの北海道要請を再延長するにとどまった。
指示のある制限に含まれない活動を最低限で実施することとした。
何度かの単独調査により僕は非常に美しいポイントを発見していた。
3か月ぶりにパートナーの吉田と合流し、荒れる海の美しい氷を登り開拓に成功。
この氷を“ONE PIECE”と名付け1枚の写真をFacebookに公開した。
写真には多くのLIKEがつき、海外のトップクライマーからメッセージが飛んできた。
アイスを長くやっていると難易度や大きさより、そのロケーションの美しさに興味が出てくると僕も感じている。
“ONE PIECE”とコロナ禍、そして僕の中にある見えない答えを踏まえて、公開の方法を考えた。
“ONE PIECE”への地図はこれまで開拓した奈良/吉田課題の9本内、4本を登れた人に渡すという公開条件をつけた。
北海道の新しいアイスサーキットゲームの提案と、今は人を誘導する地図情報はあまり良くないと感じたからだ。
開拓とは?公開とは?
何をすれば開拓で、どうすれば公開なのか?あまり明瞭ではない。
ただ登れば開拓なのか?地域調整を行う事が必要なのか?だれもが安全に登れるまで整備することが開拓なのか?
雑誌に投稿すれば買う人にだけ公開され、SNSにアップすれば繋がりのある人にだけ公開される。公開と言っても実は何らかの制限された中にある。
僕の開拓公開はいちいちアプローチ図や注意事項、ルート情報や近所のラーメン屋なんてことは知らせない。自分の行動記録と美しい写真を何枚か見える形にするだけだ。
それを見て興味がある人は何らかの手段で連絡をしてくる。時には遠方から家を探して来る人もいる。
僕は彼らに必要な情報を全て提供し、近所の美味しい定食屋も教えたりする。僕にとってはこれが公開なのだ。
“ONE PIECE”は宝を探し冒険に出る例の漫画のタイトルだ。
僕にはこの美しいロケーションにあるアイスは宝に見えた。
奈良/吉田課題を4本登るという公開条件を出してすぐ、北海道のクライマーが行動を始めた。
彼らからは課題のインフォメーションや初登のスタイルについての質問が寄せられ、1つ1つに丁寧に返答している。
彼らが手に入れた地図をどうするかは自由だ。僕からの制限はない。
SNSにアップするのか、誰にも見せないのか、自分で考えればいい。
クライミングというゲームを面白く進め、グレードではない価値を目指す“ONE PIECE”の公開は、僕にとって今たどり着いたラフテルなのだ。
by奈良誠之

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