【ラジョダダ 初登頂⑥】26時間のアタック日
いよいよ念願のアタック日。朝起きて空を見上げると、無数の星が良く見える。これ以上ない快晴だ。 暗闇の中、ヘッドランプを頼りに山頂へ向かってアタックを開始。
その 20 分後、台地へと続く 40°程の雪面を歩いていると、大きな音とともに足下が崩れる。雪崩だ。トップを歩いていた鈴木が 15m ほど、立っ た状態で流されたが、自力で脇に走って回避した。破断面の幅 100m、厚さ 25 センチ程の雪崩だった。ある程度の想定範囲内であった事と、厚さ がなかったため大事に至らなかった。
その後は雪崩をより警戒し右縁の氷ぎみの斜面を登り、5850m の平たい台地へ出る。ここから 1 時間ほど歩くと、10/13 のデポ地まで到着。スノ ーバー4 本、スクリュー2 本などを回収し、45°の雪面を登って Chossin Himal 稜のコルへ出る。日の出に照らされたラジョダダ峰が良く見えた。
そこから Chossin Himal 稜を詰めて行くと、やがて雪がなくなり、岩が向き出しになる。III級程度の簡単なクライミングだ。アイゼンを外し、岩 稜を登って行く。30 分ほど登ると、再び雪の稜線に戻り、そこから 100m 標高を上げると、通過点である 6200m の無名未踏峰に登頂だ。
山頂か らラジョダダ方面へは、地図通り緩やかな稜線が続いていた。 獲得した標高を失いつつ、未踏の頂きに向かってに歩みを進めると、やがて膝ほどのラッセルに苦しめられるようになった。高所順応が完璧にできていないこ の標高でのラッセルは、膝下とはいえ非常にきつい。ペースを急速に落としながらも、12 時 30 分にラジョダダ本峰の基部につく。ここから山頂ま では高低差 250m 程度。行動食を食べ、荷物を置いて完全な空身で登り始める。 下から見上げた限りでは大部分を同時登攀で行けるように見えたが、実際に登り始めると、クライマーズライトが奈落の底まで 2000m 程切れ落ち ており、スタカットでのクライミングを強いられる。
1~3 ピッチ目は平均 60°、最大 75°程度の雪の斜面。予想に反してスクリューは全く効かず、スノーバー4 本とデッドマン 2 本という貧相な装 備で登る羽目になってしまった。上下のアンカーに必ず 2 本は使うので、ランナーは 60m 間に 2 本だけだ。鈴木がリードし、アンカー構築後はロープをフィックス、後続がアッセンダーで登るスタイルで登攀し た。墜落の許されない緊張感溢れるクライミングだった。
4 ピッチ目は、50°程度、腰~胸までのサラサラ雪のラッセル。支点ごと雪崩ないかと緊張したが、萩原が粘りのラッセルで切り抜ける。
5、6 ピッチ目、50°程度の雪の斜面。経験したことのない高度に耐えながら鈴木がリードしていく。下から見上げると雪庇のように見えていたも のに乗り上げると、反対側の景色が一望できた。ついに、世界で初めて、ラジョダダの頂に立つことができたのだ。広過ぎず、狭くもない山頂で世 界初登頂の喜びを 3 人で噛み締める。また、麓から山頂まで、残置物が一切なかったことからも、正真正銘の初登頂だと確信できた。
初登頂の喜びも束の間、5 ピッチの懸垂下降に取り掛かる。カンツァにもらったタルチョ(ネパール伝統の青赤白黄緑の旗)とスノーバーを山頂に残 置し、以降も暗闇の中、V 字スレッドやスノーバーを駆使して何とか手探りで麓まで懸垂下降で降りてきた。この時点で 21 時。かなりの疲労であ ったが、テントへ帰るためには再び無名未踏峰へ登り返し、Chossin Himal 稜を下らなければならない。星がばっちり見える穏やかな天気だった ので、このまま下山を続けることに。
無名未踏峰への登り返しが終わり、30 分ほど歩いたところで「暗闇の中、岩場を降るのは危ない」という判断で、稜線の 6200m 付近から、氷河へ 向かって懸垂下降をすることに。しかしこれが長い夜への幕開けとなってしまった。60m 懸垂した先には、スクリューが効まる氷もなく、張り出 した岩によってスノーバーも効まらない。真下は暗闇の中に消えて良く見えないが、崖である事は間違いなさそうだった。1 時間、辺りを掘りつく し、何とか掘り当てた 50 センチ程の岩と、何とか刺さったスノーバーを使って懸垂下降を続けようとする。しかし、一本の 60m ロープが岩か何 かに引っかかり、いくら動かしてもビクともしない。回収不能になってしまった。
仕方なく、ここからは一本の 60m ロープだけで下降する。幸い、その 1 ピッチを終えると何とか歩いて降れる雪面に出たので、一安心。暗闇の中、 未知の斜面に懸垂で降りる判断はリスキーだった。 テントまでの難所は超えたので、後はトレースを頼りに半分無意識で降っていく。とはいえ、行きに雪崩に流された斜面もあったので気は抜けな い。
テントに辿りついた時には日の出を迎えていた。出発から到着まで 26 時間、心身共にボロボロ、一生忘れられない非常に充実した 1 日となった。
【少しの仮眠後、ACを後にし、ベースキャンプへ】