石狩伝説 M10 NP初登
石狩岳初滑降の帰り道、余韻も冷めぬまま、普段なかなか歩かないThe Big Boxエリアを散策しに出かけた。夏季は石狩川がジャバジャバと流れており、左右に挟まれた岩壁の淵を気安く歩けないところなのだ。冬季は川の淵に雪が積もり、歩けるようになるという幻想的なロケーションだ。すると、、、左右の壁に走る無数のクラックが目に飛び込んで来た。これはどうやらお宝を発見してしまったようだ。こんなにアプローチが近くて未踏のエリアがまだ存在したとは、、、。
週を改め、数本ロープソロで触ってみる。パラレルなクラックが多いので、アックスはスポスポと抜け、アイゼンは全く受け付けない。どうやらこのラインはアックス装備で登れる代物では無いようだ。気持ちを切り替え、念のため持参したTCプロに履き替え、雪の舞う中クライミングを開始。すると開始1分で、手は悴み、足は痺れて敗退を余儀なくされた。素手で登るには3月の特別暖かい日か、4月でないとダメそうだ。4月終わりになれば、雪でできた足場はなくなり、このクラックにたどり着くことは難しいだろう。
更に翌週、上川町ゆきうみハウスにAACH成田氏を招待し、先日のパラレルクラックを回り込んだところにあるもう一つのプロジェクトに取り掛かる。今回はビレイヤーがいるので、ある程度の思い切りも許容できる。
ラインは2通り考えられた。一つは、右側のツルツルしたフェイスに一本貫くフィンガークラックを辿り、フィストクラックの走る凹角に入り込むルート。もう一つは、スタートから凹角に入り込みフィストクラックとアックスの刃のサイズの極細クラックを辿るかどちらかだった。
早速、前者のルートでトライを開始するが、スタートからフェイスホールドの一切ないフィンガークラックに、アックスも足も全く引っ掛けられず、敢え無く敗退。その後、後者のラインで再トライ。苔に隠された3~5ミリ程度の極細クラックをなぞると、あろうことか、なんとワンムーブのリーチごとにまあまあ引っかかる何かが存在した。クラックに詰まった凍土だろうか。完全にこのエリア独特の苔に隠されていて、アックスが引っかかっているか目視確認することができない。入念にテスティングをして、プロテクションと自分を信じてズルズルと上がっていく。あるセクションでは、テスティング時にはバッチリだったアックスが、何かの弾みに中の凍った泥ごと50センチズルズルズルっとフォールしたが、何とか耐えた。
アイゼンの爪を置けるホールドは極々わずかなのだが、右のフィストクラックにフットジャムをしたり、左側に都合よく存在してくれている側壁の苔につっぱたりして、上手く壁の中に入り込むことができる。体幹、足、腕を全て酷使し、ルートの中程を過ぎると、先ほどまで気持ち良いくらいに決まっていた、真ん中の極細クラックがアックスでスポスポと抜けていく核心地帯が現れた。ここはフィストクラックにグローブジャムを咬まし、左右の壁に足を突っ張り耐えていくしかない。グローブでのジャムは傾斜がなくても消耗する。全身が攣りそうだ。ここまで来たら何としてもレッドポイントしてしまいたい。
核心を超えると、徐々にフィストクラックがパラレルでなくなり、ワイドの技術を少し試されるセクションが突如現れる。与えられた岩の形状を最大限に使い、そこからは粘りのずり上がりクライミング で何とか木の枝まで這い上がり、小さな岩塔の頂上にマントルを返した。
トライ前日、成田と銀河伝説に取り組み、極寒の中アックス、アイゼンでのクラック技術をどうしたら高められるかという課題を提示され、翌日訪れたThe Big Boxエリア。ここはわずか5分というアプローチであり、日本でも数少ない、そういった種類のミックスクライミングを強化できる素晴らしい場所となるかもしれない。
本家の石狩岳に登り、初滑降をした翌日に見つけたこのクラック、そして銀河伝説に突き詰められた課題の練習のために再び訪れようとアイデアが浮かんだこと、石狩川の両側壁が雪で埋まったこの時期しかトライできない神秘的なロケーションから「石狩伝説」と名付けた。
北海道のミックスではM10以上を神居古潭で5本、千代志別で2本登り、銀河伝説を触った経験などからも比較し、M10NPとグレーディングしておきたい。リード終了時の精神的疲労は斬鉄剣(M11+)やスカイフォール( M11-)よりも遥かに厳しいものがあり、もはや正しいグレーディングかは分からないが、現在斬鉄剣に執拗にトライし、仕上がっているAACH佐藤ベガ雄の意見も考慮した。(ベガ雄は初登の1週間後にコレを見事一撃!)
The Big Boxエリアは、北海道の綺麗な自然がそのまま残る美しいエリアなので、ホールドとなる苔はなるべく剥がさぬよう、丁寧なフットワーク、アックスワークを意識されたい。